認知症とはどんな病気なのか、単なる物忘れと認知症はどう違うのか、
認知症の種類と治療、対応についてまとめました。
目次
《認知症とは?》
脳は、人間の活動をほとんどコントロールしている司令塔です。それがうまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。かつては痴呆症といわれていた認知症とは、さまざまな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために、日常生活、社会生活を営めない状態のことをいいます。
《ただの物忘れとの違い》
物忘れには加齢によるものと認知症が原因となるものがあります。加齢による物忘れは、脳の生理的な老化が原因で起こり、その程度は一部の物忘れであり、ヒントがあれば思い出すことができます。本人に自覚はありますが、進行性はなく、また日常生活に支障をきたしません。
認知症による物忘れは、脳の神経細胞の急激な破壊により起こります。物忘れは物事全体がすっぽりと抜け落ち、ヒントを与えても思い出すことができません。本人に自覚はありませんが、進行性であり、日常生活に支障をきたします。
《認知症の種類》
認知症にはいくつかの種類がありますが、主なものとして、アルツハイマー型、脳血管型、レビー小体型があります。この中でもっとも多いのはアルツハイマー型で全体の約60%を占め、次いで、脳血管型、レビー小体です。そのため、一般的に認知症=アルツハイマーと認識をされる場合が多いのです。
アルツハイマー型
脳にアミロイドβやタウと呼ばれる特殊なたんぱく質が溜まり、神経細胞が壊れて死んでしまい減っていくために、記憶を司っている海馬という部分を中心に病変が起こり、認知機能に障害が起こると考えられています。また、徐々に脳全体も委縮していき身体の機能も失われていきます。症状は、認知機能障害(もの忘れなど)、物盗られ妄想、徘徊、取り繕いなどがあります。
アルツハイマー型と診断された中には血管障害を起こしている場合も多いと言われており、脳血管性認知症の症状を来たす場合があります。このように脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症を併発した場合を、混合型認知症といいます。
脳血管型
脳梗塞、脳出血などが原因で、脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまい、本来担っていた機能を失うことで起こります。症状は、認知機能障害(同じ事をしても出来る時と出来ない時が繰り返し起きる状態:まだら認知症)、手足のしびれ・麻痺、感情のコントロールがうまくいかないなどです。
レビー小体型
レビー小体とは、神経細胞に出る特殊なたんぱく質です。レビー小体が脳の大脳皮質(人がものを考える時の中枢的な役割を持っている場所)や、脳幹(呼吸や血液の循環に携わる人が生きる上で重要な場所)にたくさん集まってしまいます。
レビー小体がたくさん集まっている場所では、神経細胞が壊れて減少している為、神経を上手く伝えられなくなり起こります。症状は、認知機能障害(注意力・視覚など)、幻視、妄想、うつ状態、パーキンソン症状、自律神経症状などです。
《アルツハイマー型認知症の治療、対応》
現在、アルツハイマー型認知症を元の状態に戻す治療法はありません。なので、アルツハイマー型認知症の治療はご本人が快適に暮らせるよう、またご家族や介護者の負担を軽くすることが治療の目的となります。
主な治療には、感情や興味を刺激し、心の安全をはかる非薬物療法と、薬物療法があります。
非薬物療法
今出来ること、興味を持っていることを活かし快適な環境づくりを心掛けます。過去に慣れ親しんだ歌や玩具、道具などを利用し、人生を振り返ることでご本人の自己認識の回復をはかる回想法など、さまざまな療法があります。ご家族や友人とのコミュニケーションやデイサービス、グループホームでのおしゃべり、ゲームなども頭と心を活性化するための大切な刺激となります。
薬物療法
アルツハイマー型認知症により失われた記憶や機能を回復させ、病気を完全に治す薬はまだありませんが、症状の進行を遅らせる薬や不安、妄想、不眠などの症状を抑えるための薬による治療が中心となります。進行を遅らせることでご家族と一緒に過ごす時間を長くすることができ、またご家族、介護者の負担を軽くすることにもつながります。
アルツハイマー型認知症の方の対応
・話題を繰り返すことに怒らない。本人は嫌なことをいわれたと不快に思ったり、怒られたと感じます。このとき、この不快や怒られたという感覚だけが残りやすく、うつ傾向に繋がることもあります。
・カレンダーやメモなどを利用する
・薬の飲み忘れやたくさん飲んでしまい危険な状態になる場合もあります。1回分をまとめてカレンダーなどに貼って、飲み忘れがないように工夫するようにします。
・本人生活しやすい環境をつくる。人によって分かりやすい、分かりにくいは違うので確認しながら生活しやすい環境を作っていきましょう。
・物盗られ妄想や幻視などの訴えが起きている時は、興奮している場合があります。否定すると、余計興奮に繋がります。否定はせずに話を合わせるようにしましょう。
・嫌な思いや不快なことなどの感情は残りやすいと言われています。不快な思いなどはストレスとなって、症状の悪化に繋がる場合もあり、介護者が出来る範囲で、ご本人に合わせるようにするのが、介護を続けるコツになります。
ただ、徐々に介護負担は大きくなってくるので、介護保険のサービスも利用して対応していくといいでしょう。
《脳血管型認知症の治療、対応》
脳の細胞は一度死んでしまうと戻ることはありません。脳血管性認知症の記憶障害やその他の認知機能障害を改善させる確実な方法は現在ないため、脳血管障害の再発予防と認知症の症状への対症療法が治療の中心となります。
脳血管障害を再発することで悪化していくことが多いため、再発予防が特に重要です。その危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などを適切にコントロールするとともに、脳梗塞の再発予防のために血液をサラサラにするといった薬が使われることもあります。
また、意欲・自発性の低下、興奮といった症状に対しては脳循環代謝改善剤が有効な場合もあります。また、抑うつに対して抗うつ剤が使用されることもあります。
脳血管型認知症の方の対応
・初期段階の場合、自分が認知症であることを認識していることもあります。しかし、本人はどうすることも出来ません。出来ないことが増えていくことを自覚するのは、本人にとっては大変辛い状況です。そのことに配慮し、辛い状況を受け止める言動を心がけましょう。また、出来ないときと出来るときの波があります。そのことを理解して、自立度に合わせて援助をしましょう。
・感情失禁がみられるため、落ち着いていても急に悪化することがあります。本人の感情の変化のポイントを掴むことで、介護をしやすくなります。
・発症後、徐々に身体機能が低下し、寝たきりになる場合もあります。介護を行う上で、在宅や施設で過ごす場所の選定、経管栄養や呼吸補助、心肺蘇生など治療の選択については、本人の意思確認が可能なうちに話し合い、患者さんの意思を尊重することも重要です。
《レビー小体型認知症の治療、対応》
レビー小体型認知症を完全に治したり、進行を止めたりする薬はありません。ただ、認知機能の低下や変動、幻視に対して、アルツハイマー病の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬が有効な場合があります。また、抑肝散という漢方薬も幻視、気分の不安定さなどに対して効果があるとされています。その他に、パーキンソン症状に対しては、パーキンソン病の治療薬を使用します。
レビー小体型認知症の方の対応
・レビー小体型の方の幻視に対しては、ご本人にとってはそこにいるものとして見えているため、否定はしないでください。逆に周りの人が見えていないと嘘をつき、自分をバカにしていると感じ、怒ったり暴力を振るったりする場合があります。話を合わせて安心させるようにしましょう。
・低い段差でもつまずきやすくなり、少しバランスを崩しただけでも転倒してしまう危険性があります。せかしたり、無理強いをしたりせず、必要なら援助してあげてください。
《記事のまとめ》
現在では、症状を元に戻す事ができないので、早期発見と早期治療がとても重要です。
少しでも進行を遅らせるためにも、何かおかしいと異変に気付いたら病院を受診するようにしましょう。