褥瘡についてまとめました。
目次
《褥瘡とは?》
褥瘡とは、一般的には床ずれとも呼ばれ、寝たきりなどによって体重で圧迫されている場所(特に骨が突出している場所)の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。
褥瘡は、以前は褥創と表記されていましたが、現在では「褥瘡」の表記が一般的です。「創」は傷を、「瘡」はできものを意味し、褥瘡を単なる創(傷)とせずに、瘡と表記することになりました。
《褥瘡の原因とどんな人がなりやすい?》
ベッドのマットや布団、車いすなどにより外から圧迫を受けると、カラダの中では皮膚や皮下脂肪、筋肉などを押しつぶそうとする力、左右に引っ張ろうとする力などがかかります。これらが複雑に絡み合って血流が悪くなり、皮膚や皮下組織、筋肉などに酸素や栄養が行き渡らなくなります。
自分でカラダを動かすことができる人は、無意識のうちにカラダを動かしたり、寝返りをうったりして、カラダの同じ部分に長時間の圧迫がかからないようにしています。しかし、自分でカラダを動かすことができない人は、皮膚の同じ部分に長時間の圧迫がかかることになり、それが褥瘡の発生につながります。
また、褥瘡を発生させやすくしたり、治りにくくしたりする原因も以下のようなさまざまなものがあります。
皮膚における原因 (皮膚は弱くなると外からの刺激でダメージを受けやすい)
・摩擦やずれがおき、皮膚が弱くなっている状態
※ずれとは、ベッドのマットや布団で上体を起こすとき、カラダを動かすときやカラダを拭くときなどに、皮膚の表面と皮膚の内部が互い違いにずれることです。皮膚にずれが起こると、皮膚の中では筋肉から皮膚に向かう血管が引き伸ばされて細くなるため、皮膚への血行が悪くなり、褥瘡になりやすくなります。
・皮膚が乾燥して弱くなっている状態(年をとると肌が乾燥しやすくなります)
・汗や尿・便などで皮膚が汚れたり、ふやけたりしている状態
全身的な原因
・食事を十分に摂れず、栄養状態が悪い状態
・やせている(皮下脂肪が減少し、骨が突出している状態)
・骨粗鬆症、糖尿病、心不全、認知症、骨盤骨折、脊髄損傷、脳血管疾患などの持病が原因で、カラダを動かしにくい、痛みを感じにくい、血流や栄養状態が悪い状態
・抗がん剤、ステロイド剤などの薬を使用している場合(皮膚が感染を起こしやすくなっている状態)
・むくみがある状態
社会的な原因
・介護力(マンパワー)の不足
・福祉制度・サービスなどに関する情報の不足
《褥瘡の症状》
褥瘡ができた直後から約1~2週間の時期を急性期、それ以降を慢性期と呼びます。
急性期では、皮膚に赤みや内出血、水ぶくれなどができます。
褥瘡は急性期をすぎると、以下の3つのいずれかの経過をたどります。
慢性期に移行せず、赤みが消えて治ります。
慢性期に移行し、浅い褥瘡になります。
慢性期に移行し、赤みが黒色に変わり、深い褥瘡になります。
浅い褥瘡:死んだ組織がほとんどなく、新しい皮膚をつくる元となる細胞や毛根も残っているため、そこから新しい皮膚が再生し、比較的短期間で治ります。症状は、急性期と同様で皮膚の赤みや内出血、水ぶくれなどです。
深い褥瘡:死んだ組織が多くあり、それを取り除くことによって初めて、そこに新しい組織ができて傷が治りますが、治るまでに長い期間を要します。
《褥瘡ができやすい部位って?》
褥瘡のできやすい部位は、骨が突出していて、ベッドのマットや布団、車いすなどで圧迫されているところです。また、寝ているカラダの向きや姿勢によって違ってきます。
仰向けの場合:おしりの中央にある骨が突出している部分(仙骨部)に最もできやすく、後頭部、肩甲骨部、かかとなどにもできます。
横向きに寝ている場合:耳、肩、肘、腰骨が突出している部分(腸骨部)、太ももの骨が出ている部分(大転子部)、膝、くるぶしなどにできます。
うつぶせの場合:耳、肩、膝、つま先などにできます。また、女性の場合は乳房、男性の場合は性器にもできます。
車いすに座っている場合:おしりの骨(坐骨部)、尾骨部、背部、肘などにできます。
《褥瘡の重症度分類》
褥瘡の重症度は多くのものがあり、Shea、Daniel、Campbell、IAETなどの分類があります。代表的なものがNPUAP(米国褥瘡諮問委員会:National Pressure Ulcer Advisory Panel)の提唱するステージ分類です。しかし、日本の褥瘡対策にあったものがありませんでした。そこで、日本褥瘡学会が開発したものがDESIGNです。
DESIGNは、Depth(深さ)、Exudate(浸出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症/感染)、Granulation(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)の頭文字を組み合わせています。さらに、ポケット(皮膚欠損部よりも広い創腔がある)場合は「-P」を付けます。DESIGNでは、各項目の点数を合計して重症度を見ます。そして合計点が少なくなれば褥瘡は改善されていることになります。
DESIGNは、褥瘡経過を評価するとともにより正確に重症度を判定できるDESIGN-R(2008年改訂版)に改訂されました。 Rはrating(評価あるいは評点)の頭文字です。
《褥瘡の治療法》
褥瘡の治療は、保存的治療、物理療法、外科的治療に分けられます。
保存的治療
ぬり薬(外用薬剤):褥瘡に使えるぬり薬にはさまざまなものがあります。創部に感染があるときに使えるもの、感染が落ち着いた後に創部の治癒を促すものや、保湿により創部を保護するものなど、その役割はさまざまです。その薬の性質は(油脂性:油分による創面の保護、乳剤性:乾燥した組織に水分を与える、水溶性:浸出液を吸収する)、創面に大きな影響を与えるので、選択する際の大きなポイントとなります。
傷の状態は時間と共に変化します。傷の状態に合わないぬり薬を漫然と使っていると、傷を悪化させる可能性もあるため傷をよく観察し、その状態に最適なぬり薬を使いましょう。
ドレッシング材(創傷被覆材):ドレッシング材とは、傷を覆う医療用材料のことです。傷を覆うことで、外部からの刺激や細菌の汚染などを防ぎます。非固着性(創面にくっつかない性質)のものであれば、交換の際、肉芽組織や新生表皮(再生した組織)を損傷しにくく、疼痛も少ないことから、より早い治癒が望めます。
傷から出てくる滲出液は蛋白に富み、創傷治癒に関わるさまざまな成分を含むため、適切な量を傷の周囲に保持することで、傷の治りを促進することができます。しかし、過度の浸潤は治癒に悪影響を及ぼす可能性があり注意が必要です。
ドレッシング材は、それぞれに浸出液を吸うことのできる量、性質が異なりますので、傷の深さや浸出液の量によってさまざまなものを使い分けます。
ドレッシング材を適切に使用すれば、創部の治癒は促進されますが、ドレッシング材の選択、交換の時期、外用剤との使い分けなど、判断に迷うことも少なくありません。
物理療法
物理療法とは、生体に物理的刺激手段を用いる療法です。疼痛緩和、傷の治癒促進、筋・靭帯などの組織の弾性促進などの目的で行われます。その種類は、温熱療法、寒冷療法、水治療法、光線療法、極超短波療法、電子刺激療法、超音波療法、陰圧閉鎖療法、高圧酸素療法、牽引療法などがあります。
水治療法:水治療法は、水温35.5〜36.6℃の湯または渦流浴を全身、または褥瘡部に対して行うものです。水の物理的特性(温熱・寒冷、浮力、水圧)による作用、溶解成分による特異的作用、洗浄作用、精神的な作用を活性化する治療法で、ハバード浴などがあります。
電気刺激療法:電気刺激療法は、外から電流を与えて、傷の治癒効果を活性化させる療法で、D3以上の深い褥瘡か、治療に抵抗性を示す褥瘡に適応があります。通常、生食ガーゼの上に電極を留置して、カラダの別の部位に、もう一つの電極を貼って通電します。それにより、血管収縮、白血球凝集作用、殺菌的作用が認められます。
超音波療法:超音波療法は、創面に超音波を当てて、線維芽細胞や血管内皮細胞や白血球を活性化させる療法です。
外科的治療
手術には、大きく分けて外科的デブリードマンと再建術があります。
外科的デブリードマン:外科的デブリードマンとは、日々のぬり薬・ドレッシングなどを用いた治療だけではとれないような傷にしっかりくっついている壊死組織を、メスなどを用いて切り取ってしまうことです。
壊死組織がある傷は非常に治りにくいので、壊死組織の状態に応じて外科的デブリードマンを行う必要があります。深さが皮下組織以上に及ぶか否かや、局所の感染巣の局在、壊死組織の量および拡大範囲、創部の血行状態、痛みへの耐性に応じて外科的デブリードマンを行うか検討します。
再建術:再建術とは、自分の皮膚などを用いて、傷を閉じてしまう手術です。ほかの治療に比べて、自身のカラダの一部を犠牲にすることや麻酔を必要とするなど負担が大きいです。基本的には、術後の暮らし方などを十分に考慮した上で、ぬり薬やドレッシングによる治療を行っても治りそうにない、あるいはかなりの治療期間が必要と思われる、傷が骨まで達しており、その骨の状態が良くないなどの傷に関する判断材料および全身の状態をもとに決定します。
《記事のまとめ》
褥瘡にならないためは、長い時間同じところの圧迫を避けるために定期的に体位変換を行ったり、突出部の圧力を低くするエアマットを使用することが必要です。また、栄養状態の改善やしっかりスキンケアを行うことも大切となってきます。