水頭症(主に特発性正常圧水頭症)についてまとめました。
目次
《水頭症とは?》
脳は豆腐のように柔らかくて頭の骨の中に収まっていますが、硬い骨に直に当たると壊れてしまいます。そのため、この間にクッションとなる水(脳脊髄液)が入っています。この水は脳の中の脳室と呼ばれる部屋の中で常に新しく作り出されて入れ替わっていきます。
ところが、何らかの要因でこの水がうまく吸収されないような状態が起こると、水がどんどん溜まって大切な脳を圧迫し、脳の機能を麻痺させてしまいます。
《水頭症の種類》
水頭症のタイプは2つあります。
非交通性水頭症(小児に多い水頭症のタイプ)
脊髄液が産生される場所である脳室の経路上で、脳脊髄液の流れがブロックされた場合、その上流の脳室が拡大します。中脳水道が狭くなって脳脊髄液が流れにくくなっている場合が多く、小児に多い水頭症です。脳圧が高くなり、頭痛・嘔吐・意識障害などの症状がでますが治療できます。
交通性水頭症(成人に多い水頭症のタイプ)
脳脊髄液が脳室経路から出た後、クモ膜下腔やクモ膜顆粒で脳脊髄液の循環・吸収が悪くなり、脳脊髄液が脳室に溜まる(脳室拡大)病気です。必ずしも脳圧が高くならない(正常範囲:180mmH2O以下)場合があり、歩行障害・認知症・尿失禁が主な症状として現れます。これを正常圧水頭症と呼び、通常は高齢者に起こります。
《正常圧水頭症の種類》
正常圧水頭症には2種類があります
特発性正常圧水頭症(iNPH)
原因は特定できないにもかかわらず、脳室の拡大が認められ、歩行障害・認知症・尿失禁といった症状が進行する病気です。脳室や髄液腔(クモ膜下腔)が拡大すると周囲の脳組織を圧迫したり、血流が悪くなることによって歩行障害・認知症・尿失禁といった症状が進行していきます。これらの症状は、高齢者ではよくみかけるものなので、脳萎縮などとの区別も難しいのですが、この特発性正常圧水頭症も的確に診断できれば脳神経外科手術(髄液シャント術)によって症状の改善を得ることができます。
続発性正常圧水頭症(sNPH)
くも膜下出血や腫瘍、頭部外傷などの後に続いて発症する場合を続発性正常圧水頭症といいます。先行する病気が明らかなため、的確に診断され脳神経外科手術(髄液シャント術)によって治療されています。
《特発性正常圧水頭症の検査》
髄液排除試験(タップテスト)
タップテストは、比較的容易で診断の精度も高いといわれており、背骨から比較的細い針で髄液をゆっくり約30cc抜く(腰椎穿刺)検査です。早い人では、この検査から1時間後に歩きやすくなるという変化がみられます。
この変化は、1日だけで元に戻ってしまう場合もあれば、長く続く場合もあります。
また、話し方がはっきりしてきた、尿失禁がなくなったなどの変化が検査後数日~1週間程度経ってからみられることもあります。タップテストで症状が改善した場合は、髄液シャント術での症状の持続的な改善が期待できます。
画像診断
画像診断はカラダの内部を輪切りにしたように映し出すCTスキャンやMRIといった断層画像診断装置で頭の内部で起こっている病態を詳細に把握することができます。画像検査は通常30分前後で済み、痛みを伴いません。特徴的な所見は、脳室の拡大とともに、頭の天辺(高位円蓋部)あたりの脳実質が詰まってみえます。
また、クモ膜下腔の状態を把握し、髄液循環を妨げる要因を注意深く観察します。また、その他の病気がないかを確認するために、脳梗塞や脳萎縮の存在、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などの有無を同時に注意します。
脳SPECT
脳SPECT検査では、MRIでは分からない脳の血流状態を確認することができます。脳の機能が低下している部分は、脳の血流が低下しています。脳血流のパターンの違いによって、特発性正常圧水頭症なのかその他認知症なのかを判断します。
《特発性正常圧水頭症の治療法》
特発性正常圧水頭症の治療法には、髄液の流れを良くするために髄液シャント術が行われます。
髄液シャント術には、3種類の手術があります。
VP(脳室-腹腔)シャント術
頭(脳室)と腹腔を、皮膚の下に通したシリコンでできた管で連結し、髄液をお腹の中で持続的に吸収させる手術です。前頭部の頭蓋骨に穴を開けて管を挿入する方法(側脳室前角穿刺)と後頭部から挿入する方法(側脳室後角穿刺)があります。後角穿刺は、前角穿刺と比較して整容的に優れている反面、頭部回旋が必要であり、管を挿入する方向がズレやすいという欠点があります。
LP(腰椎-腹腔)シャント術
腰(腰椎くも膜下腔)と腹腔を、皮膚の下に通したシリコンでできた管で連結し、髄液をお腹の中で持続的に吸収させる手術です。タップテストのときと同じく、まず細い針で腰椎穿刺を行い、髄液が排除されたことを確認した後に、太い針を挿入して、その中に細いシリコンでできた管を挿入します。その管を背中側から腹側に皮膚の下を通します。
VA(脳室-心房)シャント術
頭(脳室)と右心房を、皮膚の下に通したシリコンでできた管で連結し、髄液を血液へ持続的に吸収させる手術です。腹膜炎の既往や腹部の手術の影響で、腹腔内が癒着していることが想定される場合には、この手術方法を検討します。
《シャントの種類》
髄液シャント術において重要なものが、水頭症治療用シャントシステムです。過剰に溜まった脳脊髄液を流す管がシャントシステムです。基本的には、一本の管ですが、状態によりシャントシステムが選択されたり、理想的なシステムを組み合わせます。
圧固定式バルブ:主に低圧、中圧、高圧の三種類の開放圧を特徴としており、病態に応じて選択されます。
圧可変式バルブ:いくつかの圧に設定することができ、手術前後に限らず症状に合わせて設定圧の変更をすることができます。設定された圧以上になると作動します。
重力可変式バルブ:体位により圧設定を自動的に変更し、脳室内圧を生理的範囲内に維持することで、流量調節に関する問題の解決を意図したバルブです。この機能により、流量不足の危険を高めることなく、流量過多を回避することが期待できます。
特殊機能バルブ:圧可変差圧バルブで最大設定圧によってもシャント流量過多症状、所見の改善が得られない場合には、サイフォン効果防止装置である特殊機能バルブの追加設置を検討する必要があります。
《手術後の合併症》
シャント術後の合併症には、シャントチューブ自体の機械的トラブルと機能的トラブルがあります。シャントチューブ自体のトラブルとしては、シャントチューブが異物などによって詰まる、シャントバルブが何らかの衝撃によって破損する、シャントチューブが切れるなどがあります。また機能的トラブルとしては、髄液の過剰排除による頭痛などの低髄液圧症状、スリット状脳室)、硬膜下血腫発生、シャント感染などがあります。その際は、もう一度、またはそれ以上の手術が必要になる場合があります。
《手術を受けた場合の注意事項》
バルブを組み込む手術を受けた後は、磁力で圧の設定が変ってしまうため、MRI検査などを行う際は必ず申告し、受けた後にはすぐに圧の調整を行うよう主治医の診察を受けるようにしてください。また、バルブ部に強い衝撃は与えないように注意しましょう。
《記事のまとめ》
歩行障害、認知症、尿失禁は他の病気でも起こる症状です。その病気を除外するためにも、この3徴候を見逃すことなく、早い段階での医療機関受診をお勧めします。