人間のカラダには大小600を超える筋肉が存在しています。
そんな筋肉の病気についてまとめました。

 

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《筋肉の役割》

筋肉は、生命活動を維持する上でも重要な役割を果たしています。その働きは、カラダを動かすというだけではなく、衝撃の吸収、血管、臓器などを守る、基礎代謝をあげる、血液やリンパの循環を促す、ホルモンの産生、姿勢や体位の維持など、様々な働きをしています。

 

筋肉は、たくさんの筋繊維という繊維でできています。筋繊維の細胞数は産まれたときから決まっています。

筋肉がつく、落ちるということは、一本一本の筋繊維が太くなったり細くなったりすることです。筋繊維は非常に細くできていて、軽く動かしただけでもすぐに傷つき、切れてしまいます。切れた筋繊維はタンパク質などによってすぐに補修されます。

 

切れる、補修するという働きを繰り返すとだんだん強い筋繊維が作られ、切れにくくなっていきます。これをさらに繰り返すと筋繊維が太くなり、筋肉がつくという状態になります。

 

筋繊維の種類によって、筋肉は骨格筋、平滑筋、心筋の3つに大きく分けられます。

 

骨格筋

骨格筋とは、筋繊維に細かい横じまがあるので横紋筋といいます。腕や足の筋肉、腹筋、背筋などがあります。自分の意志で自由に動かせ、運動して増やせる筋肉です。筋肉全体の約40%を占めています。関節をまたいで、2つの骨についている筋肉が伸び縮みすることで、カラダを動かすことができます。急速に運動することができますが、疲れるのも早いのが特徴です。

平滑筋

平滑筋とは、内蔵や血管の壁にある筋肉で、消化管や血管を動かし、消化や血流の助けをしている筋肉です。自分の意思では動かしたり、止めたりすることはできません。ゆっくりと長時間の運動ができることが特徴です。

心筋

心筋とは、心臓だけにある筋肉です。心臓全体が、筋繊維の網目のようになっています。自分の意志とは関係なく一生の間、規則正しく働き続けます。穏やかに動いたり激しく動いたりすることができます。

 

 

《筋萎縮》

筋萎縮とは、筋肉がやせることをいいます。筋が萎縮すると筋力も低下し、今まで出来ていたことが出来にくくなります。

筋萎縮には筋肉自体の病気による場合(筋原性筋萎縮)と、筋肉に運動の指令を直接伝えている運動神経の障害による場合(神経原性筋萎縮)があります。

 

一般に筋肉の病気では肩から二の腕や腰回りから太ももにかけての筋肉(近位筋)が萎縮しやすいのに対して、神経の病気では手足の先の筋肉(四肢の遠位筋)が萎縮しやすいという違いがあります。

代表的な筋肉の病気には、筋ジストロフィーなどの遺伝性筋疾患、多発筋炎・皮膚筋炎などの炎症性筋疾患があります。神経原性筋萎縮の多くは末梢神経の障害(ニューロパチー)により生じ、これにも外傷や圧迫によるもの、炎症性のもの、遺伝性のものなどさまざまな原因があります。筋萎縮性側索硬化症という徐々に全身の筋肉が萎縮する難病も神経原性筋萎縮を起こす代表的な病気です。

 

筋肉や神経にこのような病気がなくても、筋肉は使わなければやせてきます(廃用性筋萎縮)。また、全身の筋肉の量は加齢とともに減少していきますが、この現象はサルコペニアといわれ、高齢者における虚弱の重要な要因で、寝たきり状態になる重大な危険因子です。

 

サルコペニアを予防するためには、運動と栄養摂取が重要です。筋萎縮を治療するには、まず正確な原因を診断して、適切な治療法を選択することが重要です。

 

《筋ジストロフィー》

筋ジストロフィーとは、骨格筋の壊死、再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称です。筋ジストロフィーの中には多数の疾患が含まれますが、いずれも筋肉の機能に不可欠なタンパク質の設計図となる遺伝子に変異が生じたために起きる病気です。

 

遺伝子に変異が生じると、タンパク質の機能が障害されるため、細胞の正常な機能を維持できなくなり、筋肉の変性壊死が生じます。その結果、筋萎縮や脂肪・線維化が生じ、筋力が低下し運動機能など各機能障害をもたらします。

 

遺伝子形式は大きく分けて3種類です。X染色体連鎖は、母親のX染色体のうち1つに原因遺伝子がある場合に、その遺伝子が男の子に引き継がれると発症するという遺伝形式です。原因となる遺伝子が女の子に引き継がれた場合は発症しません。

 

常染色体優性遺伝は、ペアになっている遺伝子のうち一つに原因遺伝子があった場合に、それが子どもに受け継がれることで発症するという遺伝形式です。片方に原因遺伝子があると発症するため、親が原因遺伝子を持っているときは2分の1の確率で子どもに発症します。X遺伝子とY遺伝子の区別はないため、男女両方に遺伝の可能性があります。

 

常染色体劣性遺伝は、1対の遺伝子の両方が原因遺伝子の場合に発症します。そのため、両親が原因となる遺伝子を持っている場合は4分の1の確率で子どもが発症します。この遺伝形式も常染色体優性遺伝と同じく、X遺伝子とY遺伝子の区別がないため、男女ともに遺伝の可能性があります。筋ジストロフィーには臨床症状の特徴や発症年齢、遺伝形式等に基づいて分類されるジストロフィン異常症や顔面肩甲上腕型などの臨床病型があります。

 

 

治療としては、現時点では根本的な治療薬はありませんが、研究の進歩により新しい薬の開発が進められている疾患もあります。

 

筋肉、呼吸、飲み込み、循環(心機能)等、それぞれの症状について、対症療法が行われています。

 

骨格筋(カラダを動かす筋肉)の症状に対しては、適切な負荷での運動を続けるは重要です。また、早い時期から関節可動域訓練(ROM)を行うことで、しなやかさを保ち、カラダの変形や痛みを防ぐことが期待されます。また、背骨の変形は座れなくなったり呼吸にまで影響したりという影響があるため手術による矯正も行われています。ステロイドが有効とされ、保険適応となっている疾患もあります。

 

呼吸に対しては、肋骨周辺の筋肉をしなやかに保ち、肺を健康な状態に保つために呼吸理学療法を行います。呼吸機能が低下しはじめたら、マスク型の呼吸器や排痰補助装置の力を借ります。

 

飲み込みに対しては、飲み込む力に合わせた食形態で水分や栄養を摂ります。食べ物や飲み物が、食道ではなく気管に入ってしまうと、誤嚥性肺炎につながり大変危険です。飲み込む力が低下し始めたら、経鼻胃管や胃瘻造設を行い、胃に直接栄養を届けます。胃瘻で必要な水分・栄養を摂り、口からは楽しむための食事をするということを併用をしている人も多くいます。

 

しかし、変形や心肺不全のため胃瘻造設が困難な場合が少なくありません。嚥下機能に問題がある場合は、早い時点で検討することをお勧めします。

 

循環(心機能)に対しては、心保護剤を中心とした対応を行います。不整脈については薬剤のほか、ペースメーカー、除細動器などの埋込式機器や心臓カテーテルによる焼灼術が行われることもあります。

 

《筋萎縮性側索硬化症》

筋萎縮性側索硬化症とは(Amyotrophic lateral sclerosis、略称: ALS)脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロン(運動神経細胞)が侵され、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。

 

ALSは、初めに出てくる症状によって2つのタイプに分けることができます。

 

ものがうまくつかめない、足が前にでない、しゃがんだとき立ち上がりにくいなどの手や足に力が入りにくくなるタイプ(四肢型)と、ろれつが回りにくい、ラ、パ行がうまく発声できない、飲み込みにくいなどの舌や口が動きにくくなるタイプ(球麻痺型)があります。

5人のうち3人は手足に、2人は舌や口に初期症状が現れます。

ALSで損なわれるのは運動神経であり、脳や脊髄などの中枢神経、感覚神経、自律神経は比較的ダメージを受けにくいです。また、症状の進行スピードは大きく異なります。短期間で急速に進行する場合もあれば、中には人工呼吸器を使用する必要なく、十数年にわたってゆっくり進行する場合もあります。

 

治療としては、根本的な治療法はなく、進行を抑制させる、症状を軽減させる、症状の進行のスピードを遅らせるための薬物療法と対処療法があります。

 

薬物療法といえば、ALSの進行を遅らせる作用のあるリルゾールという薬です。リルゾールはグルタミン酸の興奮毒素を押さえる効果があります。服薬することで気管切開や人工呼吸器を使用するまでも期間を2、3カ月遅らせることができます。しかし、運動機能や筋力回復といったものはありません。なお、周辺症状の緩和の為に、安定剤や消炎鎮痛剤、湿布などが使用されることもあります。

 

対症療法は、ALSは痛みを伴うことが多く、痛みを和らげるために、抗てんかん剤、筋緩和剤、マッサージや体位変換、温熱療法、非ステロイド系抗消炎剤などが使用されます。また、不安からくる不眠などがあります。不眠については各症状に合わせた対処方法で改善されない場合は、睡眠薬が使用されます。睡眠薬の使用の場合は呼吸障害などが少ないものを選択します。

 

嚥下機能の低下に対しては、初期段階では食べ物については、小さく食品を刻む、とろみのあるものを使用するなどで食べやすい状態にすることや少量ずつ口に入れて嚥下する、顎をひいて嚥下するなど摂食・嚥下の仕方に注意することが必要です。症状が進行し、自力で食事ができない場合には、状況に合わせて、鼻から食道を経て胃に管をいれて流動食を補給(経鼻経管栄養)したり、お腹の皮膚から胃に管を通したり(胃瘻)、点滴のよる栄養補給などの方法があります。

 

呼吸管理については、初期的な段階では理学療法や呼吸法などを行って呼吸を改善することができます。症状が進行につれて、呼吸補助具(NIPPV)や気管切開、人工呼吸器などを使用します。

 

《記事のまとめ》

今回取り上げた2つの病気は、根本的治療が見つかっていないものです。
しかし、初期段階から治療を開始すれば進行を遅らせることは可能です。
また、医学は日々進歩しており、新しい薬や治療法が研究されています。

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